『善き書店員』に学ぶ書店員のつくりかた
書店員はどのように作られるのか。
どのような思いを持って、書店員となり、日々の業務を行うか。
どんなことに楽しみ、苦しみ、喜び、悩み。
本屋に行くと、お店で必ずや目にするであろう、書店員。
日常に現れる、その彼ら・彼女らの歩んだ道と風景。
その書店員6名が見た景色を、丹念に紡いだ等身大のインタビュー集が、木村俊介さん『善き書店員』(ミシマ社)。
『善き書店員』に出てくる登場人物
本書に登場する書店員
佐藤純子さん/ジュンク堂書店仙台ロフト店
小山貴之さん/東京堂書店神田神保町店*1
堀部篤史さん/京都・恵文社一乗寺店
藤森真琴さん/広島・廣文館金座街本店
長﨑健一さん/熊本・長崎書店
高頭佐和子さん/丸善・丸の内本店
(所属店名はインタビュー当時)
本書に登場する、ときにカリスマ書店員と呼ばれる、また名前の知られた独立系の書店を経営する、そして働く人々。個人的に、担当さんが書棚を作るという行為は、在り来たりですがまさに畑を耕すという行為そのもの。
引き継いだ棚、新しく耕す棚があり、日々新しく入荷する本と返品する本との格闘。売れる本と売りたい本のせめぎ合い*2。
売れた本と売れた本との間にある会話。逆に残った本の言葉。
日々の水やりの大切さ、一日でも放っておくと、時に荒れてしまう不思議さと。
佐藤さん、小山さん、高頭さんの耕し方はそういう意味でも、本屋の棚がどのように作られているかの一端を知ることができる内容*3。
異色な存在
そのような中で、登場する彼が語る言葉は、他の5人と違った角度を感じます。
本という存在、経営方針、ツールとしてのソーシャル対応。
本屋さんについての本を読んでいると、業態のことだったり、店内に閉じる方向での仕事についてしか触れられていなくて、努力の矛先がちがうのかなと……とはちょいちょい思います。たくさん残業をすればおもしろいお店ができるのか?
『善き書店員』p104 堀部篤史さん/京都・恵文社一乗寺店
堀部さんが言う、本屋業界に対する一種の警笛は大いに唸ってしまいます。
「書店員よ、中に閉じこもらずに外に出よう」という叱咤激励はこれからの本屋のかたちを考える上でも参考になるキーワード。
いま書店に求められること
これは別の機会に詳しく触れたい内容ではありますが、私が考える「いま書店が目指している文脈」は5つの道に集約できます。
- 接客
- 企画の切り口
- イベント
- 希少性
- 地域性
この5つのポイントの中で長崎さんが触れていた「地域性」はどの本屋さんであっても取り組めるもの。反面、その取り組み方は地元の人にとって目につきやすい内容や質があり、力の入れ方は書店のバロメーターともなります。
たとえば、地域の本屋としてという視点。熊本にあるうちのような店からしたら、石牟礼道子さんや渡辺京二さんの本は地域と歴史について語るうえで欠かせないわけです。ですから、そうした作家の本をきちんと見せる。
『善き書店員』p219 長﨑健一さん/熊本・長崎書店
本書がつくるもの
全体を通じた読後感は、真冬の凍る寒さの中で、家に帰ると用意してくれていた「コーンスープ」のような感覚。その温かさに心が溶かされると同時に、ちょっぴりと熱さにヤケドしそうになる。そのまろやかさに心癒されると同時に、ちょっぴりと苦みを覚える。
大好きな「コーンスープ」。
この作品を味わうことで、書店員である私にとっては、原点を、そして目の前にある景色を見つめ直すきっかけを与えてくれる大切な書。
木村さんがガイドしてくれる書店員の「心の中の旅」に触れることで、本屋さんで見える景色は違って見えてくる。また、本屋好きか否かに関係なく、『善く』働くことに対する一種の提示は行き先の天気に曇り模様を感じる人にとっても一見の価値がある。
「心の中の旅」は、最近仕事に取り組みながらも、時折感じる不安や、焦燥感に駆られる人にこそ手に取って欲しい旅のガイドブック。最新著作含めて木村さんの見せてくれる旅は、あなたが抱えるモヤモヤを照らし出す「光」を見つけるきっかけとなるかもしれない。
ここ最近になるまで、私は本の価値というのを疑ったことはありませんでした。ただ、この数年は、そもそも本ってなんだろうなと、折にふれて考えるようにはなりました。
『善き書店員』p168 藤森真琴さん/広島・廣文館金座街本店
参考記事
刊行記念の木村さんのインタビューも是非お読みいただければ!
「善き」という言葉に込めた想い ~『善き書店員』刊行記念インタビュー~|今月の特集2|みんなのミシマガジン