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積読書店員のつくりかた

とある書店員が気ままに書く、本と本屋さんとそれをつなぐ人々についてのつぶやき。書店と読書とイベントな日々、ときどき趣味。

『きみはいい子』は、降り止まない雨の日を超えて、晴れ渡る空に虹が浮かぶ。6月27日公開映画の原作をおすすめしたい



私は父が嫌いだ。いや、正確な表現で言い直そう。私は、父親が地球上で一番嫌いだ。大嫌いだ。

デカい声。無神経さ。自信過剰さ。無慈悲な行動。家族を顧みないところ。一方自分の趣味にはなにをしても許されるという態度。そのすべてを。

人は親から生まれてくる。その親を選ぶことはできない。将来遺伝子をいじって親に都合のいい子どもを選択できたとしても、子どもにとっては選択することはできない。

目の前には、親がいる。梅雨の季節に降りやまない雨のように、逃れることができず天から降ってくる。

あたしはみんなおぼえている。

小さな小さな手。のばすと、大きな手ではらいのけられた。手をつないでほしかっただけなのに。小さな手は、大きくなり、今、小さな頭をひっぱたく。

おさえられない怒りにつながる、忘れられない記憶。

あたしはみんなおぼえている。

『きみはいい子』p97

きみはいい子あらすじ

先週末27日から公開されている映画の原作小説『きみはいい子』を、今回ご紹介したい。

ある雨の日の夕方、ある同じ町を舞台に、誰かのたったひとことや、ほんの少しの思いやりが生むかもしれない光を描き出した連作短篇集。

夕方五時までは家に帰らせてもらえないこども。娘に手を上げてしまう母親。求めていた、たったひとつのもの―。それぞれの家にそれぞれの事情がある。それでもみんなこの町で、いろんなものを抱えて生きている。心を揺さぶる感動作。

「桜が丘」というとある町を舞台にして、「学級崩壊」、「モンスターペアレンツ」、「児童虐待」、「育児放棄」、「郊外」、「高齢者の社会的孤立」、「認知症」などをテーマに、身近に潜む存在たちを、丁寧に取り上げた珠玉の短編集。

扱うテーマは大変重たく、手に取ろうとする人も躊躇するかもしれない。けれども、その筆の進み具合は、リアリティに照らしている一方で人に対する優しさがつまっている。思いやりが溢れている。

★第1回静岡書店大賞
★第28回坪田譲治文学賞
★2013年度本屋大賞第4位

そして、書店員も愛する作品であることは間違いない。

そして、自分で言うのもあれだが、『きみはいい子』の映画化を一般人でツイートしたのは私だと(勝手に)信じている。好きな作品の映画公開は言葉にならない嬉しさで胸がいっぱいだ。
 

子どもの頃の思い出

自分はいつまでも、六歳までの記憶の中にいる。 幸せなこどもだったころの記憶の中に。

『きみはいい子』p305

おかあさんを捨てても、わたしは、この記憶を持っていこう。
雨にけぶるブランコをふりかえって、誓った。
この記憶だけは忘れないで、持っていこう。わたしが年を取って、なにもかも忘れてしまっても。

『きみはいい子』p327

いつのころだろう、母親に軽く存在を否定されたのは。

「(父親)と結婚しなかったら私の人生は良かったのかもしれないね。昔、案外モテたのよ」というモテ自慢と共に「あのときの彼は今小学校の校長になってるから、安定した生活が送れたかもね」というセリフ。

あのときから、望まれた子どもではないのではないか疑惑が、自分の中で盛り上がった。それからというもの冷めた子どもに育ったのはここだけの秘密。本が友達だった。たまにボールも友達だった。

本書に出てくる「親友」との幸せな記憶に似た記憶が、私の脳裏に刻み込まれている。思い出とはなぜあんなに幸せなのだろう。ときどき記憶の中に生きていると感じるのはなぜだろうか。

著者インタビュー中脇初枝さん『きみはいい子』 きらら from BookShop

 

慈愛と人のぬくもりに満ちた作品の迎えるエンドロールは、きっと晴れ渡る空に虹がかかる。あなたの心に。仕合せな気持ちを呼び起こす本書をおすすめしたい。

いまなら、高良健吾さんと尾野真千子さんの映る表紙が目印。 

([な]9-1)きみはいい子 (ポプラ文庫)

([な]9-1)きみはいい子 (ポプラ文庫)

 
([な]9-2)わたしをみつけて (ポプラ文庫)

([な]9-2)わたしをみつけて (ポプラ文庫)

 

 

映画関連リンク

iiko-movie.com

www.youtube.com

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「人を愛する」ってどういうことなんだろう?そんな普遍的なテーマをもとに綴られ、ベストセラーとなった中脇初枝の同名短編小説を映画化。監督は『そこのみにて光輝く』でモントリオール世界映画祭の最優秀監督賞を受賞した呉美保。
誰かに愛されること、それは傷みに気付いてもらえること、手を差し伸べられること、認めてもらうこと、褒めてもらえること、抱きしめられること―。本作は、様々な人が抱える悩みや苦悩の中に、一筋の希望の光を描くストーリーテリングで、「愛」という漠然とした概念にハッキリとした輪郭をもたせている。「愛とは何だろう?」と悩める人におすすめの一本だ。


原作をよもう。映画をみよう。そこにある、希望の光を、虹を見るために。

  

池脇千鶴さんの配役が個人的にベストチョイス。