積読書店員のつくりかた

とある書店員が気ままに書く、本と本屋さんとそれをつなぐ人々についてのつぶやき。書店と読書とイベントな日々、ときどき趣味。

【W杯決勝目前】なでしこジャパン佐々木則夫監督の『なでしこ力』を読んで、さぁ、再び一緒に世界一になろう!



初めて佐々木監督の会見を映像で見たとき、なんてお茶目な監督なのだろう!と思うと同時に、こんなにも脱力気味のサッカー監督が日本代表の監督で大丈夫なのだろうか。そう感じた記憶がある。

けれども、本書『なでしこ力 さあ、一緒に世界一になろう!』を読んで感じる彼の姿勢は、実直かつ、チームマネジメントの側面からもサッカーにおける戦術面でも理路整然としており、人生におけるトライ&エラーをもざっくばらんに話す内容に、とても好感を持って読むことができる。

「組織はリーダーを映す鏡である」*1という趣旨の言葉は、トルシエ・ジーコジャパンで日本代表コーチやアテネ五輪日本代表監督を務めた山本昌邦氏の方が語った言葉であったと思うが、彼の言葉を借りれば、

なでしこジャパンは、佐々木則夫という存在に共鳴した組織・チームである

と言えるのではないだろうか。著書を紐解き、なでしこジャパンという仕組みを形作った彼の言葉を振り返ることで、決勝へと望む「大胆」で、「勇敢」な輝く花たちへのエールとしたい。

目次
第1章 はじまりは、アクシデント
第2章 ひたむきさとは、「できる」と信じる心
第3章 最高の仲間たちと
第4章 新しい力
第5章 世界がたたえる「なでしこ力」
第6章 横から目線
第7章 歩々是道場
第8章 なでしこたちから学ぶこと
第9章 則夫力
第10章 金メダルの重み
第11章 なでしこの未来

なでしこ力 さあ、一緒に世界一になろう! (講談社文庫)

なでしこ力とは

心を一つにする。
厳しく濃密なトレーニングにも高い集中力で取り組む。
崖っぷちに追い込まれても絶対に諦めない。
どんな相手にも、臆することなく普段どおりの自分を表現する。
そして何より、大好きなサッカーをとことん楽しむ。

これら、日本の女性に備わるポジティブなパワーを、僕は「なでしこ力」と呼ぶ。

『なでしこ力 さあ、一緒に世界一になろう!』第1章

なでしこの選手たちは、アグレッシブだ。その根底にあるのは「サッカーを楽しんでいる」こと、前回の決勝で見せた宮間選手のアメリカ選手への対応といった「相手を敬う」こと。失敗を恐れず、結果を気にせず、目の前にある仲間とのサッカーを純粋に楽しむ。

 それは命名の由来ともなっている「なでしこ」にも関連づけられる可憐・お淑やかなということだけではなく、行動力のある・芯のある女性ということではないだろうか。

チーム「なでしこジャパン」のマネジメント

現状分析と目標設定

この大会での勝ち負けは、さほど重要視していなかった。徹底すべきテーマは、あくまでも半年後に照準を合わせたチームコンセプトの共有と、コンセプトを現時点でどこまで実行できるかの確認だ。

僕には自信があった。北京で戦う世界の強豪がどんな特徴を有しているか。それに対してなでしこジャパンの強みは何か。強みを活かして戦う方法とはどんなものか。それらを分析した結果、澤をボランチに置くことが最もふさわしいと考えたのだ。 

どちらも『なでしこ力 さあ、一緒に世界一になろう!』第2章

今大会においても直前まで澤さんをメンバー入りさせるかどうか分からない点など、どれだけ勝ち上がってもチーム力向上を目指す飽くなき取り組み。

なでしこの強みと弱みを把握したうえで、メンバー選考や選ばれたメンバー自身の課題設定によって強みを引き出そうとしている。

そして、チームの戦略を共有したうえで、「監督にさせられるサッカー」ではなく、「選手が考えて戦うこと」を望む佐々木監督であるが、個々のシーンで「相手がこのように攻めて来たら」、「ボールをこのように運ばれたら」という個別のケースに応じた戦術を決めておくことで、チームとしてのバランスも作っている。

またサッカーの常識とはそぐわないとも言える「外から中へ」は、女性の強みと弱みを考慮した戦術でもある。

マネジメント手法の徹底

就任後、僕はさっそく以下の4つのマネジメントに着手した。

1 勝つ可能性を高める戦略・戦術を立てる
2 適材適所で人の強みを活かす
3 フィードバック情報を与え実力を客観視する
4 継続学習によって完成度を高める

『なでしこ力 さあ、一緒に世界一になろう!』第2章

ボディバランスや洞察力などを見極めて、澤穂希をボランチに据えたこともそうだが、彼は選手の能力を観察して、強みを引き出すためにPDCAサイクルを回すかのごとく、選手たちに教え、練習や試合で実行させて、能力を高めていく。

能力のある阪口選手に目をかけつつ、その気弱さを見抜き、育てていこうとする例は彼の監督としてのマネジメント手法の一端を見ることができる。

選手とのコミュニケーション 

思う存分に自分の長所を出そうという選手の気持ちが萎え、「怒られないように、ミスをしないように」という消極的な気持ちでサッカーに取り組むようになってしまうかもしれない。指導者からの評価や指示に、敏感に反応する女性選手たちにとって、「見られている」と「見てくれている」では大違いなのだ。

『なでしこ力 さあ、一緒に世界一になろう!』第5章

特に女性の多い職場では、そのコミュニケーションに四苦八苦している方も多いのではないだろうか。かくいう私も……(笑)

女性選手たちを指導するという難しいであろう立場も、彼にかかれば容易なことではないのかと読んでいいたところ、失敗例も何個か読むことができる。男性だけのチームで対応することとは、想像以上に違いが大きい。性格的な傾向から、そのまま男性と女性の脳の違いにまで踏み込んでいる部分は大変興味深い。

選手との関係性

僕はチームのボスではなく、選手たちの兄貴分、あるいは父親役を務めていて、すでに選手たちと対等に近い人間関係を築いていた。

『なでしこ力 さあ、一緒に世界一になろう!』第5章

すべての仲間と心を一つにすることで、「なでしこ力」は最大に高まった。

『なでしこ力 さあ、一緒に世界一になろう!』第3章

 前節で述べた、女性であるという点は、時に特徴を持って語ることができる。「共有すること」・「共感すること」の重要性だ。特に監督としての上から目線ではなく、同じチームに属するひとりの人間として横から目線で取り組むことの大事さを語っている。

例え、メンバー選考で選ばれなかった選手であっても、試合に出場しないサブの選手であっても、なでしこの仲間がいるから頑張れる。そんな選手も少なくないと各章を通じて垣間見ることができる。

決勝の闘いを前に

「君たちの力を出し切れば必ず勝てる」

『なでしこ力 さあ、一緒に世界一になろう!』第3章

積み重ねてきた日々の努力が、未来のメダルへとつながるのだ。自分のやってきたことが間違いではなかった、その証として、なでしこジャパンの胸にメダルが輝けば、本望だ。

「ほまれ ---なでしこジャパン・エースのあゆみ」

彼の、彼女たちの願いが叶う。そうなることを願って。

なでしこ力 さあ、一緒に世界一になろう! (講談社文庫)

なでしこ力 さあ、一緒に世界一になろう! (講談社文庫)

 
なでしこ力 さあ、一緒に世界一になろう!

なでしこ力 さあ、一緒に世界一になろう!

 
なでしこ力 次へ

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勝つ組織 (角川oneテーマ21)

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世界一のあきらめない心: なでしこジャパン栄光への軌跡

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ほまれ ---なでしこジャパン・エースのあゆみ

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「どのような組織やリーダーからも学べるものは必ずある」(『勝つ組織』まえがきより)*2

これは本書『なでしこ力』を読んで感じた私の感想である。

ワールドカップ決勝の結果は

headlines.yahoo.co.jp

本当に残念でしたが、前半の早い段階からビハインドな展開でも、絶望的な0-4という流れでも決して諦めないで、前半1-4と1点を返し、後半始まって2-4と追い付こうとする姿勢は当然の姿勢ではありますが、胸に込み上げてくるものがありました。

岩清水交代のときには私ももらい泣き……

なでしこの選手たちには、まずはお疲れ様でした!!と声をかけてあげたいと思います。

*1:佐々木則夫、山本昌邦『勝つ組織』より

*2:例のごとく、アマゾンのリンク先はクリックいただいても私に1円も入らないので安心して(?)存分にチェックしてみてください(笑)