積読書店員のつくりかた

とある書店員が気ままに書く、本と本屋さんとそれをつなぐ人々についてのつぶやき。書店と読書とイベントな日々、ときどき趣味。

書店員として訴えたい、本屋での「万引き」という名の「窃盗」問題について【追記あり】



はじめに

本屋が減ってきている。その原因はなんでしょうか。

「本が売れない」、「ネット書店(イコール帝国)があるからリアル書店なぞ必要ない」、「図書館で借りれば無問題」と邪推すればキリがありません。取り巻く現状が音速になっているのに旧来通りのスピードで運行しようとする、その腰の重さにこそ原因があると個人的には思っております。

このような「書店減少」・「出版不況」という有難くない枕詞で語られがちな業界の中において、規模の大小を問わず、本屋の頭を悩ませている問題があります。それは、人員不足や技能の伝承もあります。けれども自分で蒔いた種でもないのに引き起こされて、各方面が頭を悩ませる問題があります。

タイトルに掲げた、いわゆる「万引き」です。そして、強調しておきたいことがひとつあります。今まで複数回ツイートもしてきてクドいようですが何度でも言います。

あれは「万引き」ではなく「窃盗」であると。本記事では、本屋が減る間接的な原因のひとつ(と私が考える)「万引き」問題を取り上げます。

 

よく見ると金属バット

 

「万引き」被害の現状

お店で商品が無くなる理由

「万引き」と一緒くたに言っても、実は分類としては「不明ロス」の一種です*1

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10冊が入荷した本が、3冊売れたので(本来は7冊あるハズなのに)数えてみたら5冊しかなかった。このどこかに消えてしまった“2冊”(=本や雑誌、コミックたち)は、出版社や取次と取引する際の「伝票」などデータやり取り上のミスに起因するものもありますし、外部犯以外にも内部犯という可能性も捨てきれません。ただ大部分は万引きによる犯行だという調査結果もあります。

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この不明ロスは、はたしてどれくらいの規模かというと、JPOの調査だと対象店舗売上約2900億円につき約55億円、ロス率で言うと約1.9%です、地方郊外店ではおそらく平均的数字である年商約1.5億円(月商1200万円で計算)とすれば年間約300万円ですよ。果たして、これが「少ない」数字だと言えるでしょうか。

上記の顕在・潜在ロスの数字に当てはめれば、1日あたり5000円強を盗られている計算になります…。

また経産省の調査では、1店舗あたりの年間被害額は平均で約211万円という数字が出ています。そして事例1件あたりの数字では、約9400円!一回の犯行で、コミックにすると20冊!(1冊450円で計算)書籍にすると6冊!(1冊1500円で計算)という数字結果が出ちゃいます。ただ、これはアンケートなのであくまで参考に。

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そもそも「万引き」とは

万引き(まんびき)とは、窃盗の手口の一種。商業施設において店員の目を盗み、対価を支払わずに無断で商品を持ち去る行為を指す。

万引き - Wikipedia

イメージとしても実例としても数の多い、中高生の犯行とは別にして、たまに高齢者の万引きや子どもに万引きさせた親の転売がニュースになる*2こともありますが、気軽にゲーム感覚や生活苦にやるような類のものではありませんし、冒頭のツイートで申したように「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」のれっきとした犯罪ですからね。これは見つからないためのゲームではなく、泥棒行為だと改めて強調いたします。

万引きの手口

実際に手口としては、大胆不敵な犯行が多い。これは先輩方に比べて書店員歴はまだまだひよっこな私でも数多くの事例を目撃してからこそ言えることです。

大きなカバンを抱えて、複数人で来店。店員の視線を気にする見張り役がいて、売り場の死角で作業台などを使って、すばやく詰め込んでいく高校生集団。

多くの高額書籍を抱えたまま、売り場を巡り、カートに詰め込んでそのままレジを通過せずに、颯爽とお店を出ていく中年女性。

(転売対策なのか)スマホのアプリで商品バーコードを読み込みながら、売れ筋商品を見極めて、柱の陰で洋服の下に隠しながら彷徨う青年男性。

なんと華麗な手口でしょう。鮮やかな手口と称賛するつもりは皆無ですが、意外に周囲数メートルに他のお客様がいても犯行を止めない犯人は少なくありません。特に3つめの事例のアプリ野郎は私の担当棚での犯行(かつ背中越しに他の来店客がいる状態)だったので、2回目の犯行を現認したときは怒りに打ち震えました。

先述した大胆不敵な犯行ぶりは、NHKが特集を組んだ際のリンク先にも見ることができます。

被害にあう本

転売目的と自分用とがありますが、個人的な印象では転売用のコミックまとめ盗りと人気商品への集中を垣間見てきました。

 下記ツイートは先日の芥川賞直木賞発表後のもの。『火花』は高く売れるから盗ろうとする輩がいますからね。本当に憤慨ものです。

被害にあったばあい

 上記ツイートは被害の大きさを伝えてくれるツイートではありますが、どれほど万引きのインパクトが大きいかを事例で考えてみましょう。

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ご覧いただくと、どれほど薄利多売の書店業が万引きに苦しんでいるのかはお分かりいただけると思います。1冊盗られただけでも痛いのに、1日当たり数千円、コミックにして10冊以上も盗られていたらどうなるか考えただけで恐ろしいですし、実際に起きている事案なのです。

ただこの計算式には、注意点があります。窃盗対応への人件費や設備投資は一切考慮に入れてないということです。また、担当者が心を籠めて作った棚を荒らす行為はなにより許しがたいものです。

被害にあわないために(一部加筆修正)

まんだらけ万引き騒動がありましたが、本当に「どのように被害を減らすか」という悩みは、本屋のみならず小売業に携わるすべての人々にとって頭痛の種だと思います。画像を掲示するというのはひとつの手段ですが、幸か不幸かあの案件のように騒動になることもありえるのは事実。

けれど実際に掲示する店舗を私は見たことが複数回あります。ただそれは、警察からの警告である場合が往々にしてありました。店舗が勝手に張り出すのは、個人情報(まぁこの概念も一部議論はありますが)上の問題があるとの懸念があります。

それを飛び越えて、緊密に担当の交番・派出所や教育機関と連携することの大切さを身に染みて実感した、これまでの店舗経験でございます。 

そして万引き対策としてではなく、お客さまへの歓迎の挨拶こそが犯人たちにとっては苦痛な場合があります。ご来店される方の不快にならない範囲で、嗜好を凝らした防止ポスターなどでこの問題を訴えつつ、すべてのお客様にきちんと「ご来店に気づいておりますよ」と意味でも、相対してアイコンタクトを取りながら、ご挨拶することこそが彼らの居場所をなくしていく方法のひとつだと思っています。

(追記)万引きと同じく許さざる犯罪

まとめ

RFIDコードなど包括的な取り組みはありますが費用の問題、業界の問題も絡んで、現状では個別対応、つまりは「窃盗犯は通報の上、警察にお送りする」ことしかできません。万引き犯を許さないということです。

犯行が発覚した際には、「通報の上、実費請求」という方針を打ち出すことも抑止力としては有効策のひとつでしょう。

泥棒さんへ

なにがなんでも捕まえます。絶対に許しません。

血と汗と涙の結晶である作品を冒涜する行為は絶対に許しません。

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謝辞

今回は、本記事の趣旨にご賛同いただき、イラストデータを快くご提供いただいた、みちゃみ様に心より御礼申し上げます。

関連調査へのリンク

本記事の元データとなる、各種調査結果ブクマへのリンクを貼っておきます。その先はPDFデータになっておりますので環境にご注意ください。

はてなブックマーク - 書店における万引に関するアンケート結果について(平成14年10月25日) - 経済産業省

はてなブックマーク - 万引被害実態調査アンケート結果 - 全国万引犯罪防止機構

 

はてなブックマーク - 書店万引き等調査結果報告(平成20年3月26日) - JPO日本出版インフラセンター

はてなブックマーク - 万引きに関する調査研究報告書 - 警視庁 - 東京都

(追記)システム構築へのご意見

万引き犯への「許さない」掛け声だけではなく、「ICタグ」などシステム構築を進めるべきとのご指摘をいただきました。まさにその通りでございます。

例えば、ゲオやツタヤのレンタル商材、図書館の貸出品は比較的ICタグでの対策がなされていると思います。けれども書店に関して言えば、業界としてすべての流通品にRFIDタグを仕込む検討は検討に終わっていますし、各店舗での対策によるというのが実情。

そしてその実情も、CD・DVDなどの高額品が多い商材(利益率も書籍よりは良い)、会社として経営体力のあるチェーン店などで各店対応によって導入しているというのが対策の現状です。

今回の記事ではシステム構築や具体的な対策方法というよりも、問題自体への幅広いご理解を得たいという趣旨から記述しております。

ご理解のほどをいただければ嬉しく思います。

*1:「しかありません」というニュアンスではあるものの、その影響は計り知れないのですが……。

*2:数日前の上がってましたね

6歳長男におもちゃ万引きさせ転売…両親を逮捕 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)