宮下奈都先生への、そして新刊『羊と鋼の森』とこれまでの作品たちへの愛をこめて
拝啓、宮下奈都さま
最初に、突然の記事でお伝えするご無礼をお許しいただければと思います。
そして、まずはお礼をお伝えしなければなりません。これまで素晴らしい作品を世に送り出していただいていることに対して、読者としても、書店員としてもただただ感謝の言葉しかございません。
宮下先生の作品について
日記を書こうとしたとき、自分の思いを言葉にできないことが間々あります。また、さまざまな小説・漫画・音楽・映画の作品たちに出会ったとき、感じた言葉を文章になかなかできないことが、それ以上に多くあります。
わたしが想像の中で見るだけの、ほんのわずかな気持ちの揺れ動きにさえ、言葉にしている場面を見かけることがあります。
両手の隙間から零れ落ちるような、また時間と共に通り過ぎるような、悩み、嘆き、苦しみ、悲しみ、喜び、心地よさ、可笑しさを掬い上げることのムズカシさをいとも簡単に乗り越えているように感じられます。
目には見えないものを、言葉にする類まれなる作家さんのお一人だと常日頃から感嘆の眼差しで眺めております。そして、作品に出てくる人物たちの歩みは、小説の登場人物の行いや台詞というよりも、目の前で繰り広げられる生活の隣人の動きや声のような近さを感じます。
最新刊『羊と鋼の森』のこと
今年の初めに、調律師のお仕事ぶりを映したテレビ番組があったことを覚えています。
たしか和風総本家だったように記憶していますが、日本製の調律用チューニングハンマーを取り上げていました。
そこに出てきた映像は、魔法使いというよりも職人という言葉がぴったりに感じたほど地道さと日々の探究心を見てとれる光景でした。
よいピアノとよい調律師とよい道具がなければ、よい仕事は成されない。かつ、極めるだけではダメで、演奏する人の嗜好に合わせつつ軌道修正する仕事。その大変さは私が想像する以上に厳しく険しいものでしょう。
調律師という存在を題材に取り入れながらも、これまでの宮下作品と同様に等身大の人物が、目指した高みに「こつこつ」と、目の前の出来事に格闘しながら厳しく険しい階段を上がっていく光景。まさに私の心に小説として以上に響くカラフルな音色です。
『羊と鋼の森』あらすじ
今週のお題「人生に影響を与えた1冊」
1人の少年(そして青年へと)の歩みを丹念に、かつ表現豊かに掬い上げた成長記録。ピアノという音のする世界を、羊と鋼と森に譬える魔法は心にズシリと響く。
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