ネット書店の支払い方法や配送から考える、アマゾン帝国の優位性と揺るぎない地位!?
みなさま本やコミックや雑誌はどこで買いますか?
私は、もっぱらネット書店の利用が絶賛増加傾向にございまして……紙書籍:電子書籍の購入比率が、1:2を超えているのではないかと秘かに心配している、いちおう書店員でございます。
さて、私もヘビーユーザーへの階段を上りつつ*1の、今回は業界ネタの中でも、以前から申し上げたかった「ネット書店」をテーマに取り上げます。現状を比較しつつ、ネット書店に必要なことを考える記事となっています。28日の記事公開から、さらにリンクを一部追加しました。
まずは事例として、先月から「ネット注文→リアル店舗受取」のO2Oへと重い腰を上げた大手書店チェーンの下記ニュースから。
紀伊國屋書店の店舗受取サービスが始まった件
小見出しの通り、紀伊國屋さんが、ネット注文を受け付けた上で、商品を店舗で受け取るサービスインとのこと。さっそく、関係記事から気になるところを引用いたします。
「紀伊國屋書店ウェブストア」で注文した商品を、紀伊國屋書店のリアル店舗で購入することができる「店舗受取サービス」を、5月27日から新宿本店と新宿南店の2店舗で開始いたします。
(中略)
店頭で商品を購入する際には、図書カードや電子マネーといった、ウェブストアでは対応していない決済方法で支払うことができます。
店頭在庫Web取り置きサービス終了のお知らせ
長年ご愛顧いただきました下記店舗の「店頭在庫Web取り置きサービス」(店頭に在庫する書籍のお取り置きをWeb上でお申し込みいただけるサービス)ですが、「店舗受取サービス」の開始に伴い、誠に勝手ながら本年6月14日(日)をもちまして終了させていただきました。
【「店頭在庫Web取り置きサービス」を終了した店舗】
新宿南店
新潟店、富山店
加古川店、大津店、神戸店
広島店、徳島店
久留米店、佐賀店、長崎店、熊本光の森店、鹿児島店【「店頭在庫Web取り置きサービス」を継続する店舗】
札幌本店、新宿本店、梅田本店、グランフロント大阪店、福岡本店店舗受取サービスが全国の紀伊國屋書店の店舗でスタート! 記念キャンペーンも同時開催! | 本の「今」がわかる 紀伊國屋書店
株式会社紀伊國屋書店(代表取締役社長 高井昌史)は、運営するオンライン書店「紀伊國屋書店ウェブストア」で注文した商品を、紀伊國屋書店のリアル店舗で購入することができる「店舗受取サービス」の対応店舗を、6月15日から全国66店舗に拡大いたしました。
店舗受取サービスでは、ウェブストアにおいて24時間注文を受け付け、注文された商品はウェブストア倉庫の豊富な在庫から調達されます。
ちょうどサービスが始まって1か月ほどの模様ですが、この引用部分の中でも3つのポイントは見逃せないところです。
- 直営最大手書店チェーンが、ネット対応に後手を取っている印象であること
- 支払方法に「図書カード」と「電子マネー」を加えているのは、セールスポイントになり得ること
- 店頭在庫の取り置きサービスの一部廃止は、リアル書店の今後を占うであろう「選択と集中」の事例と見て取れるのではないかということ
この3つを以下詳しく説明していきます。
リアル書店(+α)のネット対応
1のポイントに【直営最大手書店チェーンが、ネット対応に後手を取っている印象であること】ついて。
これは紀伊國屋さんに限らないのですが、そもそも大手はあまり「ネット」販売に積極的ではありません。もちろん「リアル」な書店なので当然とも言えますが、ネットに活路を見出すのではなく、アマゾンを始めとした対ネット店舗のためにしょうがなく稼働しているように見えて仕方がありません。
もちろん運営されている方で存じ上げる方もいらっしゃいますが、組織として経営資源が十分に配分されているか疑問な部分もあります。
そのような中でも取次・書店の一部サイトでは、ネット注力の一環としてメディア媒体やコミニティを構築しようと試みている事例があります。例えば、『[T-SITE] あなたの「好き」が集まる、見つかる。』や『ほんのひきだし』。
リアル書店チェーンの対応としては、2大取次の日販HonyaClubかトーハンe-honに参加するか、紀伊國屋・DNP(丸善・ジュンク堂・文教堂)・TSUTAYAといったように独自サイトを立ち上げるかを選択しています。
ただ、これら主要5大サイトを利用した方は、その使いにくさを多かれ少なかれ感じているのではないでしょうか。
電子書店の評価なのに全否定すぎて不謹慎にも笑ってしまった。「ココが『×』・ウェブストアが使いづらい・ウェブストアがあまり進化していない」 / “電子書店完全ガイド:「紀伊國屋書店ウェブストア/Kinoppy」を徹底解剖する (1/…” http://t.co/V6HPXFJmYY
— 積読書店員ふぃぶりお (@fiblio2011) 2015, 7月 1
検索性能
検索性能の違いは、実際にお示しした方が分かりやすいので、事例をご覧いただきます。
では、少し前に話題となって類書も出始めた、あの人のタイトルを探してみます。
今回は「『世界一』『貧乏』『偉い人』」という3つのキーワード。検索はハードルが高くなりすぎるので前2つのキーワードを用います。書店員ならきっと即答できるハズ!笑
(例) 「世界一」 「貧乏」
ネット書店 | 検索結果数*2 | 正しいタイトルの表示 | 検索結果ページ |
4 |
あり 検索結果1番目 |
||
5 | なし | ||
49 |
なし | ||
61 | なし | ||
8 | あり 検索結果2番目 |
||
3 | なし | ||
34 | なし | ||
21 |
なし |
||
3 |
なし | ||
1 | なし | ||
127*3 | なし |
さて、ご覧になった感想はいかがでしょうか。
ユーザーは、純粋に「語句検索」を求めているのではなく「必要なタイトルへのスムーズなアクセス」を求めている訳です。
そして、書籍や雑誌の検索カテゴリを分けているサイトもあります。雑誌か書籍かは探す方にとってはほとんど意味のないこと。
この表が物語っているのは検索性能が優れている点でもありますが、私が言いたいのは自社サイトの検索性能に絶望して、amazon頼りなことが何度、いや何百回あったであろう書店員の存在です。
Google先生の偉大さ、Amazon帝国の的確さたるや他の追随を許しません。
書誌情報の充実も含めて、アマゾン帝国たるゆえんは情報と物流やサイトインフラへの莫大な投資にあるのではないかと感じます。
ちなみに、アマゾンに唯一勝てるのは雑誌検索でしょうね。ehonの雑誌コード検索は使いやすいので、もし自分の「探しているもの」が、「雑誌のアイテム」であれば検索してみては。
(リンク追加)雑誌 通販 : オンライン書店e-hon
探しやすさは商品カテゴリ多すぎて良いとは思わないが、特に書店取次サイトは検索性能を見習うべき。それを抜きに対Amazonはキビシいんじゃないかな。 / “電子書店完全ガイド:Amazon「Kindleストア」を徹底解剖する (1/…” http://t.co/PLHGhQals7
— 積読書店員ふぃぶりお (@fiblio2011) 2015, 4月 28
↓ちなみに正解はこちら
サイトのUI
UIや使用感については、鷹野さんがまとめてらっしゃる、電子書籍完全ガイドが素晴らしい記事になっておりますのでぜひそちらをご覧いただきたいと思います。
ネットにはない、支払手段
そのうち、2のポイント【支払方法に「図書カード」と「電子マネー」を加えているのは、セールスポイントになり得ること】は、本記事後半でまとめた一覧表を見てみると意外と利用できるサイトが少ないことが分かります。
まぁ今週upした記事で書いたように、図書カード自体が様変わりするので、強みと言えるのがいつまでかは分かりません……。
(参照)【現行図書カードの発行は来年6月まで】次世代『図書カードNEXT』で試される書店・出版業界の機動力 ※ 追記あり - 積読書店員のつくりかた
またアマゾンなどでは、電子マネー支払もできる場合がありますが、リアル店舗で支払手段として必ず選択できるのはセールスポイントにもなりえるものだと、私は考えます。
ネット書店のいまを調べてみた(送料、支払方法、受取方法)
少しばかり。すでにインフラともなっているアマゾンから書店・取次サイトまで簡単にまとめてみた。
ネット書店 | 送料 | 支払方法 | 受取方法 (宅配以外) |
無料 | クレジット 代金引換(手数料324円) コンビニ支払 電子マネー*4 |
ローソン ファミリーマート ミニストップ ヤマト運輸営業所 |
|
無料 | クレジット 代金引換(手数料305円) コンビニ支払(手数料265円)*5 |
ファミリーマート サークルKサンクス |
|
300円 ※1500円以上で無料 |
クレジット 代金引換(手数料250円) 店舗受取支払 Yahoo!ウォレット支払 ネット銀行振込 他*6 |
セブンイレブン |
|
無料 | クレジット コンビニ支払 銀行振込 ペイジー 店舗受取支払(商品券、電子マネーその他利用可)他*8 |
ヨドバシカメラ | |
無料 | クレジット 代金引換(手数料なし) コンビニ後払い(手数料なし) 店舗受取(送料・手数料なし)*9 |
ジュンク堂書店 MARUZEN&ジュンク堂書店 丸善 神戸電鉄売店 |
|
300円 ※税込1500円以上購入で無料 |
クレジット 代金引換(手数料260円) ケータイキャリア決済他*10 |
紀伊國屋書店 | |
324円 ※税込1500円以上購入で無料 |
クレジット 代金引換(手数料324円) 店舗受取(送料・手数料なし)*11 |
TSUTAYA 蔦屋書店 |
|
250円 ※税込1500円以上購入で無料 |
クレジット |
有隣堂書店 |
|
290円 ※税込1500円以上購入で無料 |
代金引換(手数料280円) 店舗受取(送料・手数料なし)*14 |
八重洲ブックセンター |
|
300円 ※税込1500円以上購入で無料 |
クレジット 代金引換(手数料230円) ゆうちょ銀行口座引落*16 |
||
250円*17 ※税込1500円以上購入で無料 |
クレジット |
|
又吉直樹『火花』(文藝春秋)の在庫状況を調べてみた
又吉さん情報まとめブログの様相を呈している最近の当ブログ(!)。
今回は、俄然好調な売れ行きの『火花』をサンプルに、リアル書店において軒並み薄いであろう商品在庫を調べてみます(7月24日朝6時時点、28日夜10時時点)。
そしてその前に、ここで又吉さんのインタビューで小休止。
さて、では電子書籍の方が安いのになぜ紙媒体の方で買うのかという疑問が生じなくもない『火花』の在庫は、果たしてあるのか。
ネット書店の在庫状況(7月24日時点)
ネット書店の在庫状況(7月28日時点*19)
ネット書店の在庫を調べて気になるところ
まず、24日時点で在庫があるのは、TSUTAYAオンラインのみ。次に到着目安である「日付を明記していること」を条件にすると、残るのはアマゾンとブックサービス。
あとは7月上旬から8月下旬をめどに順次入荷次第発送という状況。
本日28日時点で在庫があるのは、紀伊國屋書店のみ。次に到着目安である「日付を明記していること」を条件にすると、残るのはアマゾンとブックサービス。
あとは8月上旬から順次入荷次第発送。
ここで、なぜ「日付」を絞り込み項目にしたかと言いますと、。保険をかけている。ちゃんと入荷するか分からない、物流が止まるかもしれない、商品が破損しているかもしれない。
けれども早く手にした読者にとって、いつ手に入るか分からない。目安すら分からないのは不安でしかないということ。
リアル書店の在庫状況
在庫検索できる書店というのは意外にございます、特にチェーンにおいて。
リアル書店 | 『火花』 在庫状況 |
在庫店舗数 | 商品ページ |
〇 | 複数店舗 | ||
〇 | 複数店舗 | ||
〇 | 複数店舗 | ||
〇 |
複数店舗 |
||
〇 |
複数店舗 | ||
〇 |
複数店舗 |
ネット書店記事まとめ
結論 アマゾンには勝てない*21
結論 求められるのは、「ネット」に対応した書店
「ネット書店のいまを調べてみた(送料、支払方法、受取方法)」のまとめ表の中に、ネット書店を選ぶ際の重要な要素が【一つ】抜け落ちているのがお分かりいただけると思います。それはリアル書店ではなく、ネット書店で買う最大の理由。
- 早く手に入る
到着の最短予定日目安。つまり、納期がどれくらいか明示することが大事な点だと私は思います。
中盤でも記載した責任回避のために、ある程度余裕を持たせてお伝えすることはリアル書店でも往々にしてあること。出版社取り寄せの場合は「2週間ほどお時間を……」と伝えるのは機会ロスにも繋がる一因です。
使いやすいサイトデザイン、ネットに対応したスピード感のある書店が増えていくことをユーザーとして望んでいます。
ネット書店はどこをつかっていますか?
余談
ポイント3つ目で書いておきながらあえてスルーしていた【店頭在庫の取り置きサービスの一部廃止は、リアル書店の今後を占うであろう「選択と集中」の事例と見て取れるのではないかということ】。
実際リアル書店員としては、ネット注文→店舗受取の店舗オペレーションは非常に煩雑だと断言することができます。その割に利用頻度が低いのが実情でございまして……。
チェーンや店舗の規模にもよるでしょうが、知る限りでは都心や繁華街だと1か月3桁、そこから少し距離のある店舗だと1週間に2桁行くか行かないか程度、地方郊外店では1か月4、5件という幅を持ったご利用件数。
首都圏を中心とした都心部以外においては、ビジネスとして投資価値のある手段かは未知数。
また、本記事も長くなりましたので、リアル書店における電子書籍(カードetc)販売については別記事を設けたいと思います。
当ブログ関連記事
*1:とは言うもののブックウォーカーで言うところのキング以上は経験がないのでまだまだ一般ユーザーに違いない! 「キング」とはブックウォーカークラブ | 電子書籍ストア-BOOK☆WALKERで言うところの月間5万以上散財!
*2:いずれも28日時点の結果
*3:hontoのみ29日時点の検索結果
*10:支払い方法は何がありますか? | 紀伊國屋書店ウェブストア よくあるご質問より
*16:お支払について > ご利用ガイド | ブックサービスより
*17:7月31日まで送料無料キャンペーン中
*19:ehonとhontoは29日時点
*20:個別ページに飛べないので「火花」を入力して検索する必要あり
*21:希望の光ヨドバシ? ヨドバシが王者アマゾンを猛追する転機となった消費者のある行動 | 日刊SPA!